坂口安吾の「肝臓先生」で執筆脳を考える5

 ある場面の信号の流れから、シナジーのメタファーが成立することを説明する。

【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ 戦時中の病気の蔓延

A さて、次に、ひとつ、お願いがございますが、昭和七年満州事変以来、ポツポツ亜黄疸の患者があって肝臓肥大に気付くようになりましたが、その当時はちょッとフシギと思った程度で、たいして気にも留めませんでした。ところが、昭和十二年末ごろから、年々かような患者を見うけることが急速に、かつ、非常に多くなって、殊に感冒患者はほとんど肝臓肥大で圧痛あることが普通のこととなったのであります。
意味1 3、意味2 5、意味3 1、意味4 1、AI2

B そこでこの四五年というものは、アナタも肝臓がわるい、アナタも、アナタも、と言わざるを得ないものですから、あの医者は肝臓医者だ、あそこへ行くと、みんな肝臓にされてしもう、こう言って呆れてほかの医者へ転じてしもう人も多くなりましたが、又一方には、遠路はるばる宿をもとめて肝臓の診察を乞う人もあり、うれしい思いをさせられる折もあります。意味1 1、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI2

C ちかごろに至りましては流感の患者、肺炎の患者、胃腸の患者の八九十%以上に、肝臓の肥大圧痛が触診されるのでありまして、昭和十二年末から現在まで、二千例あるいはそれ以上かような患者を扱ったのですが、これらを集約して、私は流行性肝臓炎とか流感性肝臓炎とか名づけて然るべき病気ではないかと思っているのであります。意味1 3、意味2 5、意味3 1、意味4 1、AI2

D 支那大陸から持ちこまれた流感に関係があるのではないかと思っております。いずれに致しましても、かように多くの患者に向って、アナタも肝臓である、アナタも、アナタも、と申しましては、患者の中にはインチキと思う人もあり、同業者までインチキ視しまして、あれはフランスの医者であるとか、赤城氏性肝臓炎とか言いふらし、かくては当物療科の名誉を傷け、大先生の御恩にも背き、温泉療養所の先生方の目ざましい功績までも汚すことになるのではないかと心から恐れているのであります。
意味1 3、意味2 2、意味3 1、意味4 1、AI2

E それでお願いと申しますのは、この事実を申上げて篤学の皆様方の御研究の参考になって欲しいと祈るものでございます。謝恩会の席をかりまして、皆々様の御関心御研究をひたすらお願い致す次第であります。
意味1 4、意味2 1、意味3 1、意味4 1、AI1

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』の執筆脳について」より

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