論理文法に見るファジィらしさ1


 ここでは、HPSGが採用する記号のシステムと Montague文法を中心とした論理文法の小史が議論の対象となる。特に、テキストのダイナミズムの扱い方を問題にする際、状況意味論、パージング・シュガーリングそして直感主義論理などをベースにして、単語や句または文章を扱いながら、論理文法を実際のテキストとマージしていく。まず、Pollard and Sag (1994) の第1章よりHPSGの記号シス テムを説明する。統語論、意味論および音韻論のマージを目指したCarl PollardとIvan A. Sagの心意気が読み取れることであろう。
 HPSGの記号のシステムについて説明する。例えば、ドイツ語の人称代名詞 er を HPSG の素性構造によって表記してみよう。
 HPSGが採用する素性構造は、分類型である。各接点は、分類記号(synsemやlocalなど)によるラベルを持っており、枝分かれの方向を示す属性ラベル(PHONやSYNSEM)も存在する。さらに、 AVM (attribute-value matrix) が採用されているため、全体的にも部分的にも分類が把握しやすくなっている。例えば、LOCALだけを抽出して言語表現を考察することもできる。
 SYNSEMは、SYNTAXとSEMANTICSとういう2つの属性からなる複合情報である。SYNSEMは、例えば、補文の主語やto不定詞句の支配語が共有する情報を含むることから、特定の複合表現を単一表現に局所化する必要ができる。それが、LOCAL(LOC)である。この情報には、 CATEGORY (CAT)、CONTENT (CONT)、CONTEXT (CONX)という 3つ の属性が存在する。CATは、HEADとSUBCATという属性を含んでいる。
 HEADの値には、substantive (subst)と functional (fimct)が存在する。前者 には、名詞(noun)、動詞(verb)、形容詞(adjective)、前置詞(preposition)が、 後者には、限定子(determiner) やマーカー(complimentizer) が含まれる。名詞は、格(CASE)の素性を、前置詞は、前置詞の書式 (PFORM) を、動詞は、ブール素性(AUXILIARY (AUX)、PREDICATIVE (PRD))、置換 (INVERTED (INV)) といった属性 VFORM を持つ。SUBCATの値は、記号のバランスを示唆するもので、問題の記号が飽和状態を作る上で他にどのような記号と結合すればよいのかという指定になる。例えば、格の割り当てである。
 CONTは、INDEXと呼ばれる属性を担う nominal object (nom-obj) とい う素性構造である。“er rasiert sich”「彼は髭を剃る」という文の場合、er と sich は構造上のインデックスを共有する。“er” の CONTENT 値は personal pronoun (ppro)、“sich” の CONTENT 値は reflexive (refl) になる。この属性は、特に呼応(agreement) の問題で重要になる。さらに、意味上の制約を表すために、RESTICTION 属性を設けている。これは、バラメ 一夕寒象(parametrized state of affairs (psoa)) を考慮するためのものである。
 CONXは、BACKGROUND (BACKR)と呼ばれる context 属性を持っている。これも psoa に対応する。しかし、CONTENT値が文字通りの意味と関連するのに対して、BACKGROUND 値の方は、前提条件に対応するア ンカー条件を表している。例えば、上図の “er” は、男性を受けることが前提となっている。
 nelist (nonempty list) と elist (empty list) は、一種の素性構造である。前者には、FIRSTとRESTという二つの属性が指定される一方、後者にはいかなる属性ラベルも適応されない。また、e は、モデル化するための接点を導くものであり、便宜上、ε が存在する場合、neset ラベルを、存在しない場合、eset ラベルを担うことになる。

花村嘉英(2005)「計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」より


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