投稿者: info@hana123.girly.jp

  • パトリック・モディアノの「廃墟に咲く花」で執筆脳を考える5

    分析例
    (1)侯爵が唐突な消え方をする場面。
    (2)文法2 テンスとアスペクト、1は現在形、2は過去形、3は未来形、4は現在進行形、5は現在完了形、6は過去進行形、7は過去完了形。 
    (3)この小論では、「廃墟に咲く花」の執筆脳を「脈絡のない心像と虚無からの解放」と考えているため、意味3の思考の流れ、心像に注目する。   
    (4)意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3心像①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし、人工知能 心像①あり②なし、虚無からの解放①あり②なし。 
     
    A 解き明かされぬ謎と後ろめたさ=②聴覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①脈絡のない心像+②虚無からの解放という組と合わせる。  
    B 解き明かされぬ謎と後ろめたさ=④現在進行形+⑤触覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①脈絡のない心像+②虚無からの解放という組と合わせる。 
    C 解き明かされぬ謎と後ろめたさ=④現在進行形+①視覚+③哀+②なし+②隠喩という解析の組を、①脈絡のない心像+②虚無からの解放という組と合わせる。  
    D 解き明かされぬ謎と後ろめたさ=④現在進行形+①視覚+③哀+②なし+①直示という解析の組を、①脈絡のない心像+②虚無からの解放という組と合わせる。
    E 解き明かされぬ謎と後ろめたさ=④現在進行形+①視覚+③哀+②なし+①直示という解析の組を、①脈絡のない心像+②虚無からの解放という組と合わせる。

    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2021)「パトリック・モディアノの『廃墟に咲く花』の執筆脳」より

  • パトリック・モディアノの「廃墟に咲く花」で執筆脳を考える4

    【データベースからの抜粋】
    表2 言語の認知(文法と意味)

    A “Qu’est-ce qu’il fait? m’a-t-elle demandé.” “Rien. Il reste sous la pluire.” Mais, au bout d’un moment, il s’est dirigévers la porte de l’immeuble. J’entendais son pas lourd dans l’escalier. Il a sonné deux coups brefs. Puis un autre, très long. Puis des coups brefs. Elle ne bougeait pas du canapé. Il a fini par frapper contre la porte. On aurait dit qu’il essayait de la défoncer. Le silece est revenu. Son pas lourd décroissait dans l’escalier.
    意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

    B Je n’avais pas quitté la fenêtre. Sous la pluire battante, il a traversé la rue et il est venu s’appuyer contre le mur de soutènement de l’escalier que nous avions descendu tout à l’heure. Et il restait là, debout, le dos appuyé contre le mur, la tête levée en direction de la façade de l’immeuble. L’eau de pluire s’écoulait sur lui, du haut des escaliers, et sa veste était trempée. 意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

    C Mais il ne bougeait pas d’un millimètre. Il s’est alors produit un phénomène auquel j’essaie aujourd’hui de trouver une explication: le lampadaire qui éclairait, de haut, l’escalier s’est-il éteint brusquement? Peu à peu, cet homme se fondait dans le mur. 意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能 2

    D Ou bien la pluire, à force de tomber sur lui, l’effaçait comme l’eau dilue une peinture aui n’a pas eu le temps de se fixer. J’avais beau appuyer mon front contre la vitre et scruter le mur gris sombre, il n’y avait plus trace de lui. 意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能 2

    E Il avait disparu de cette manière subite que je remarquerai plus tard chez d’autres personnes, comme mon père, et qui vous laisse perplexe au point qu’il ne vous reste plus qu’à chercher des preuves et des indices pour vous persuader àvous-même que ces gens obt vraiment existé.
    意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能 1

    花村嘉英(2021)「パトリック・モディアノの『廃墟に咲く花』の執筆脳」より

  • パトリック・モディアノの「廃墟に咲く花」で執筆脳を考える3

    3 データベースの作成・分析

     データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。  

    【データベースの作成】
    表1 「廃墟に咲く花」のデータベースのカラム
    文法1 ヴォイス 能動、受動、使役。
    文法2 テンス、アスペクト 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 モダリティ 様相の表現。可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。 
    意味3 心像 過去の経験に基づいて意識の中に思い浮かべた像で、視覚や聴覚のような感覚的な性質を持つ。
    意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「解き明かされぬ謎と後ろめたさ」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
    記憶 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。 
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 脈絡のない心像と虚無からの解放 エキスパートシステム 心像とは、過去の経験に基いて意識の中に思い浮かべた像で、感覚的な性質を持つもの。視覚心像、聴覚心像。

    花村嘉英(2021)「パトリック・モディアノの『廃墟に咲く花』の執筆脳」より

  • パトリック・モディアノの「廃墟に咲く花」で執筆脳を考える2

    2 作品の背景

     パトリック・モディアノ(1945-)は、「廃墟に咲く花」(1991)の中でユルバンとジゼルのT夫妻が巻き込まれた奇妙な事件から推理小説を思わせる描写を試みる。T夫妻の自殺を警察と語り手が調べる間に、関与を示す書類が見つかった50歳位のパチューコという男が現れる。しかし、事件の解決よりも意図的に時間を錯綜させ、事件の解明よりも過去の問題が脈絡もなく浮かび上がる心と記憶、つまり脳の活動を描こうとした。 
     根岸(1999)によれば、「廃墟に咲く花」の中で、事件は順番に記述されていく。しかし、語り手が記述の現在として語るときは、時間の関連がない異なる出来事が同時に脳裏に蘇る。モディアノは、確かに人間の記憶の不可解さを考慮しつつ、過去の事柄や人々が何の繋がりもなく心に浮かんでくる過程を大切にしている。そのため、複雑に入り組んだ時の流れも、平易な文体のおかげで読者の心を引き付ける。
     モディアノの父はユダヤ人であり、1940年代初頭のドイツ占領時代に何かに怯えながら生きていた。主人公が抱く後ろめたさは、おそらく闇で仕事をしていたかそうせざる負えない理由があったためであろう。このことは、主人公の夢として作品の中に描かれている。父の世界に帰らぬうちに虚無の世界から引き出してあげれば、虚無から解放すべき(Je les tire une dernière fois du néant avant qu’ils y retournent définitivement)という作者の意思表示にもなる。
     虚無から現れて唐突な消え方をする。登場人物の出し入れの話である。例えば、何もなく虚しい状態から蘇り、出てきては不意に突然消えてしまう描写である。ずぶ濡れになった侯爵が濡れたブレザーで身動きもせずに壁にもたれて立ったまま壁の中に溶けていく(Peu à peu, ce homme se fondait dans le mur)、または、画が水で滲むように雨が侯爵をかき消してしまう(bien la pluire, à force de tomber sur lui, l’effacait)。この描写は、ドイツ軍がパリを占領した時代に生きた語り手の父にも当てはまる。
     そこで「廃墟に咲く花」の購読脳は、「解き明かされぬ謎と後ろめたさ」にする。また、記憶に絡む描写から、執筆脳は、「脈絡のない心像と虚無からの解放」であり、シナジーのメタファーは、「モディアノと不可解な記憶の心像」にする。

    花村嘉英(2021)「パトリック・モディアノの『廃墟に咲く花』の執筆脳」より

  • パトリック・モディアノの「廃墟に咲く花」で執筆脳を考える1

    1 先行研究

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
     なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

    花村嘉英(2021)「パトリック・モディアノの『廃墟に咲く花』の執筆脳」より

  • 水上勉の「海の牙」で執筆脳を考える8

    4 まとめ

     水上勉の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「海の牙」のLのストーリーをデータベース化し、最後に特定したところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    【参考文献】

    日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員通信講座テキスト ヘルスケア出版 2014
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    水上勉 海の牙(解説 山村正夫) 双葉文庫 1998 

  • 水上勉の「海の牙」で執筆脳を考える7

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    E 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2

    A:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    E:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。

    結果

     ウメコは、発病して十五日目に水潟市立病院で死亡している。死ぬ間際に水潟奇病のためベッドの上で飛び跳ねたり、もんどり返っている。ウメコが第一号患者ということもあり、母親は泣きくずれなすすべもない。そのため、「奇病とミステリー」は、考えても奥底が分からぬまま異様な描写を繰り返す「不可思議と絡み」に自然と作用する。全容が解明するまで情熱は衰えない。

    花村嘉英(2020)「水上勉の『海の牙』の購読脳について」より

  • 水上勉の「海の牙」で執筆脳を考える6

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③条件反射である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2020)「水上勉の『海の牙』の購読脳について」より

  • 水上勉の「海の牙」で執筆脳を考える5

    分析例

    1 9歳になる少女ウメコが水潟奇病で悶絶する場面。
    2 この小論では、「海の牙」の購読脳を「奇病とミステリー」と考えているため、意味3の思考の流れ、不可思議な表現に注目する。
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3不可思議①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし
    4 人工知能 ①不可思議、②絡み 

    テキスト共生の公式  

    ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「奇病とミステリー」を作る。
    ステップ2:瞬間は、ロジックでいうニューラルに通じることから「不可思議と絡み」という組を作り、解析の組と合わせる。

    A:[①視覚+⑤触覚]+③哀+①不可思議あり+①直示という解析の組を、①不可思議+②絡みという組と合わせる。
    B:[①視覚+⑤触覚]+③哀+①不可思議あり+①直示という解析の組を、①不可思議+②絡みという組と合わせる 。
    C:[①視覚+⑤触覚]+③哀+①不可思議あり+①直示という解析の組を、①不可思議+②絡みという組と合わせる。   
    D:[①視覚+②聴覚]+③哀+①不可思議あり+①直示という解析の組を、①不可思議+②絡みという組と合わせる。
    E: ①視覚+③哀+①不可思議あり+①直示という解析の組を、①不可思議+②絡みという組と合わせる。

    結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「水上勉の『海の牙』の購読脳について」より

  • 水上勉の「海の牙」で執筆脳を考える4

    【連想分析1】

    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    ウメコが奇病で悶絶する

    A  ウメコはうす目をあけて手足を間断なくふるわせているばかりだった。ものが言えないのだ。「ウメコ、ウメコ、ウメコ・・・」母親は髪をふり乱し、汐焼けした手で少女の肩をしっかりつかんだ。はげしい痙攣がつたわってきた。やにわに母親は、うつ伏しているウメコを小脇に掻き抱いた。涎が長く糸をひき、母親の手に落ちかかった。 意味1 1+2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、不可思議絡み 1

    B 「ウメコ、ウメコ・・・」絶叫する母親の顔は涙で汚れ、まっ青にかわっていた。突然、彼女は少女を抱き上げながら崖に向かって走り出した。母親の膝がしらが紅い腰巻を割ってむき出しのまま遠ざかって行った。 意味1 1+2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、不可思議絡み 1

    C 「お父、お父・・・猫踊りにかかったと、お父」網小舎の中から父親が飛んできた。ウメコを抱き上げた。母親は敷居ぎわに手をつき、夫の足もとにしがみついて泣きくずれた。「おら、駐在へ行ってくっから」そういってウメコを家の中の筵の上に寝かせた。 
    意味1 1+2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、不可思議絡み 1

    D その瞬間汚れた砂だらけの尻をまる出しにして筵の上にころげ廻った。やがてくるくると宙返りをはじめた。苦痛を訴える少女の目に、獣のような光が見えた。トタン屋根の暗い下から、村の静かな空気を引き裂くような母親の泣きわめく声がいつまでも響いていた。
    意味1 1+2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、不可思議絡み 1

    E 九歳になるこの少女が、あとで「水潟奇病」といわれる原因不明の恐るべき第一号患者となった。ウメコは、発病して十五日目に水潟市立病院で死んだ。死ぬ間際に、この少女は看護婦の制止する手をはねのけ、体を宙に飛び跳ねたり、くるくると反転させたりしたのち、悶絶した。
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、不可思議絡み 1

    花村嘉英(2020)「水上勉の『海の牙』の購読脳について」より