カテゴリー: 未分類

  • 森鴎外の「佐橋甚五郎」のデータベース化とバラツキによる分析1

    【要約】

     マクロのバランスを調節するときの二個二個のルールに従い、リレーショナル・データベースに関して、組み合わせのみならず、平易な統計処理によるバラツキの分析も試みる。バラツキによる分析から得られた数字の意味は何なのか、それがこの小論の考察の対象である。

    1 先行研究との関係

     私のテキストの分析は、シナジーのメタファーを考察することである。最初に受容と共生からなるLのストーリーを作成し、次にそれを反映するリレーショナルDBについて分析していく。
     基本的に、「山椒大夫」(1914年)と同じ方法で、「佐橋甚五郎」(1913年)について見ていくことにする。すでに見たように、鴎外の執筆時の脳の活動を感情として、「鴎外と感情」というシナジーのメタファーを作成している。「山椒大夫」と「佐橋甚五郎」の違いは、前者が誘発の強い情動(外から内)で、後者が創発の強い情動(内から外)というところにある。両作品のDBを作成しながら、この点を比較、分析することがこの小論の目的である。

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析9

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)
     
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③条件反射である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)
     
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報はまたカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)
     
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    [安寿と厨子王が山椒大夫の下で働く場面] 感情と行動の認知プロセス
    A そこでまた落ち葉の上にすわって、山でさえこんなに寒い、浜辺に行った姉さまは、さぞ潮風が寒かろうと、ひとり涙をこぼしていた。
    情報の認知1,3 情報の認知2,1 情報の認知3,2
    B 日がよほど昇ってから、柴を背負って麓へ降りる、ほかの樵が通りかかって、「お前も大夫のところの奴か、柴は日に何荷苅るのか」と問うた。
    情報の認知1,3 情報の認知2,2 情報の認知3,2
    C 「日に三荷苅るはずの柴を、まだ少しも苅りませぬ」と厨子王は正直に言った。
    情報の認知1,3 情報の認知2,1 情報の認知3,2
    D 「日に三荷の柴ならば、午までに二荷苅るがいい。柴はこうして苅るものじゃ。」樵は我が荷をおろして置いて、すぐに一荷苅ってくれた。
    情報の認知1,1 情報の認知2,2 情報の認知3,1
    E 厨子王は気を取り直して、ようよう午までに一荷苅り、午からまた一荷苅った。
    情報の認知1,1 情報の認知2,2 情報の認知3,1

    A:情報の認知1は③条件反射、情報の認知2は①旧情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B:情報の認知1は③条件反射、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は③条件反射、情報の認知2は①旧情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D:情報の認知1は①ベースとプロファイル、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    E:情報の認知1は①ベースとプロファイル、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。

    結果

    厨子王はこの場面で、条件反射的に外部から情報を取り込み、問題未解決から問題解決へ向かっている。そのため感情と行動という組が相互に作用する。

    7 まとめ

    鴎外の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「山椒大夫」のLのストーリーをDB化して、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析8

    【連想分析1】 受容と共生のイメージ合わせ

    安寿と厨子王が山椒大夫の下で働く場面
    A そこでまた落ち葉の上にすわって、山でさえこんなに寒い、浜辺に行った姉さまは、さぞ潮風が寒かろうと、ひとり涙をこぼしていた。
    意味1, 3 意味2,5 意味3,1 意味4,1 意味5,1 衛生学1,1  衛生学2,1
    B 日がよほど昇ってから、柴を背負って麓へ降りる、ほかの樵が通りかかって、「お前も大夫のところの奴か、柴は日に何荷苅るのか」と問うた。
    意味1,3 意味2,1+2 意味3,1 意味4,3 意味5,1 衛生学1,3  衛生学2,1
    C 「日に三荷苅るはずの柴を、まだ少しも苅りませぬ」と厨子王は正直に言った。
    意味1,3 意味2,1 意味3,1 意味4,1 意味5,1 衛生学1,1  衛生学2,1
    D 「日に三荷の柴ならば、午までに二荷苅るがいい。柴はこうして苅るものじゃ。」樵は我が荷をおろして置いて、すぐに一荷苅ってくれた。
    意味1,3 意味2,1+2+5 意味3,1 意味4,3 意味5,1 衛生学1,3  衛生学2,2
    E 厨子王は気を取り直して、ようよう午までに一荷苅り、午からまた一荷苅った。
    意味1,4 意味2,1+5 意味3,2 意味4,1 意味5,1 衛生学1,3  衛生学2,1

    分析例

    1 安寿と厨子王が由良の山椒大夫の館に着いて、そこで仕事をする場面。
    2 この小論では、「山椒大夫」執筆時の鴎外の脳の活動を誘発と考えているため、意味3の外から内への流れに注目する。全体では、誘発:創発=誘発が五割五分。
    3 尊敬の念の強弱を全体で比較すると、強が五割五分。
    4 振舞いの直示と隠喩を比較すると、直示が七割。
    5 ホメオスタシスを崩す要因が感情であれば、そこからいずれかの行動が現れ、ホメオスタシスが崩れない行動であれば、恒常性は保たれている。
    6 意味1:①喜②怒③哀④楽、意味2:①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚、意味3:①誘発②創発、意味4:①尊敬強②弱③記事なし、意味5:①直示②隠喩
    7 人工知能 衛生学1:ホメオスタシスを崩す①外的要因(物理、社会)②内的要因(心理、情緒、生理、身体)③記事なし(恒常性維持)、人工知能 衛生学2:①行動②エキスパート(リスク回避)③その他

    テキスト共生の公式

    ステップ1:情動(意味1、2、3)と尊敬の念(意味4)を合わせて感情とし、感情と振舞い(意味5)から解析の組(感情と行動)を作る。
    ステップ2:衛生学の特性からも感情と行動という組を作り、解析の組と合わせる。

    A:感情(③哀+⑤触覚+①誘発+①尊敬強)と行動(①直示)という組を、ホメオスタシスが崩れる外的要因①と涙が溢れるという行動①からなる衛生学の組と合わせる。
    B:感情(③哀+①視覚+①誘発+③記事なし)と行動(①直示)という組を、ホメオスタシスの維持③と何もしないという行動①からなる衛生学の組と合わせる。
    C:感情(③哀+①視覚+①誘発+①尊敬強)と行動(①直示)という組を、ホメオスタシスが崩れる外的要因①と芝を刈らないという行動①からなる衛生学の組と合わせる。 
    D:感情(③哀+[①視覚+⑤触覚]+①誘発+③記事なし)と行動(①直示)という組を、ホメオスタシスの維持③とリスク回避②からなる衛生学の組と合わせる。
    E:感情(④楽+⑤触覚+②創発+①尊敬強)と行動(①直示)という組を、ホメオスタシスの維持③と芝を刈るという行動①からなる衛生学の組と合わせる。

    結果 リレーショナルな分析1については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析7

    5 DBの作成法と分析

     DBの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。DBの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたDBを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基いた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【山椒大夫のDBのカラムの作成】
    項目名 文法1
    内容  名詞の格
    説明 鴎外の助詞の使い方を考える。

    項目名 文法2
    内容 ヴォイス
    説明 能動、受動、使役。

    項目名 文法3
    内容 テンス、アスペクト
    説明 現在、過去、未来、進行形、完了形。

    項目名 文法4
    内容 モダリティ
    説明 可能、推測、義務、必然など。

    項目名 意味1
    内容 喜怒哀楽
    説明 情動との接点、瞬時の思い。

    項目名 意味2
    内容 五感
    説明 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。

    項目名 意味3
    内容 思考の流れ
    説明 外から内(誘発)、内から外(創発)。

    項目名 意味4
    内容 尊敬の念
    説明 感情に見られる継続的な思い。

    項目名 意味5
    内容 振舞い
    説明 ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。

    項目名 医学情報
    内容 病跡学との接点
    説明 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「情動と尊敬の念」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。

    項目名 記憶
    内容 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)
    説明 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。

    項目名 情報の認知1
    内容 感覚情報の捉え方
    説明 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。

    項目名 情報の認知2
    内容 記憶と学習
    説明 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。

    項目名 情報の認知3
    内容 計画、問題解決、推論
    説明 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。

    項目名 人工知能衛生学1
    内容 ホメオスタシスが崩れる内外の要因
    説明 ホメオスタシスが崩れる要因を外的と内的に分けて、そこから何れかの感情を引き出す。

    項目名 人工知能衛生学2
    内容 エキスパートシステム
    説明 リスク回避を目的とした行動にも注目する。

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析6

    4.1 『山椒大夫』

     この作品は、遠く離れた父親に会いに行く旅の途中で母親と別れるも、姉弟が力を合わせて両親と世話になった人たちに献身の気持ちを伝えるという内容である。これを外から内への思考とすると、ここでの脳の活動は誘発になる。

    ① 安寿と厨子王は、人買いに買われて由良の山椒大夫の所で奴婢になり潮汲みと柴刈りを強いられる。健気な中にも父母への思いは募るばかり。ある日、初めて二人一緒に柴刈りに出かけた。姉は予め弟に二人では駄目だから、一人で筑紫の父の所へ行って、佐渡へ母を迎えに行くようにと話した。結局、厨子王は一人で都を目指すことになる。そして、安寿は入水する。 
    ② 僧形になった厨子王は都に上り、東山の清水寺に泊まる。開運の時がきた。関白師実に事の経緯を話したところ、筑紫に左遷した平正氏の嫡子という身元が判明し、厨子王は師実に客として迎えられる。師実が還俗した厨子王に冠を加えると、欲求を満たしてくれるものに接近する情動が厨子王に生まれる。
    ③ 厨子王は元服後正道と名のった。父の安否を筑紫に尋ねたところ、死亡していることがわかり、正道は身がやつれるほど嘆いた。体の生理状態と心の状態は、密接な関係にある。悲しい時には、涙があふれて全身が緊張し、子供のようにしゃくりあげて泣く。正道もその類である。ここでは身内との惜別による悔しい気持から、哀れな情動が生まれている。
    ④ その後、正道は丹後の国守になる。都へ上る際に手を貸してくれた曇猛律師は総都にし、安寿を懇ろに弔い、入水した岬に尼寺を建てた。そして、任国のために仕事をしてから、佐渡へ母を探しに行く。母と姉への献身である。これは、正道個人の尊敬の念である。
    ⑤ 佐渡に着いて大きな百姓家の生垣を覗くと、刈り取った粟の穂が干してあり、雀が啄むのを女が逐っている。正道は心が引かれると同時に身が震えた。女は盲である。耳を立てると、安寿と厨子王のことが恋しいと歌っている。探していた母がそこにいる。正道は臓腑が煮えくり返るも雄たけびを堪えた。縛られた縄が解かれたように垣根の中に駆け込んで、守本尊を額に押し当て母の前にうつ伏した。雀ではないとわかると、母の両方の眼は涙で潤い、その時目が開いた。そして、二人はぴたりと抱き合った。

     ここでも自分の欲求を満たしてくれるものに接近行動を示す情動が母と正道に現れる。情動にはこのように人を行動に駆り立てる性質がある。つまり、情動を単なる心的状態ではなく、脳の機能として捉えることにより、「鴎外は感情」というシナジーのメタファーが作られる。
     情動ついては、大脳の内側にある大脳辺縁系が密接な関係にある。特にその中でも扁桃体が重要であり、扁桃体と線維連絡のある視床下部や視床下部と線維連絡のある中脳中心灰白質も、情動の表出に関与している。例えば、情動に伴う自律神経系の反応(心拍数、呼吸、血圧の変化)や行動面での反応(恐怖に対するすくみや逃避、怒りによる攻撃)の生起である。つまり、扁桃体─視床下部─中脳中心灰白質という1つの系が情動に関与する脳の部位になる。(二木:1999)

    基礎編第二章の論文「読む・書く」で説明した【要約の手順】と照合してみる。
    ◇ 要約文を4段落(起承転結)で考える。①が起、②が承、③と④が転、⑤が結になる。
    ◇ 段落毎にキーワードを6、7個探す。①であれば、安寿と厨子王、由良の山椒大夫、奴婢、一緒に柴刈、一人で都を目指す、入水するにする。
    ◇ 段落毎に中心文を探す。①の中心文は、「姉は予め弟に二人では駄目だから、一人で筑紫の父の所へ行って、佐渡へ母を迎えに行くようにと話した」にする。
    ◇ 中心文を使用して、その段落を要約する。できるだけ5W1Hも考える。キーワードとキーワードを助詞や動詞で繋いでいく。 
    ◇ テーマ・レーマも考慮すること。例えば、「一人で筑紫の父の所へ行って」が旧情報で、「厨子王は一人で都を目指す」が新情報。

    誘発 感情 ①平正氏の嫡子という身元が判明。(喜び)
       行動 ①師実が厨子王に冠を加える。欲求を満たしてくれるものに接近する情動が厨子王に生まれる。
       感情 ②父の安否を筑紫に尋ねると、死亡が確認される。(哀れ)
       行動 ②身がやつれるほど嘆いた。身内との惜別による悔しい気持から哀れな情動が生まれる。
       感情 ③二人はぴたりと抱き合った。(喜び)
       行動 ③欲求を満たしてくれるものに接近する情動が母と正道に生じる。

    尊敬の念 感情 ①正道(厨子王)が丹後の国守になる。(責任感)
         行動 ①律師は総都にし安寿のために尼寺を建て母を探しに佐渡へ行く。母と姉への献身である。

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析5

    4 鴎外の脳の活動は感情

     動物全般の感情は、人間を含めて動物が生得的に持っている本能のことをいう情動と人間特有の感情といえる尊敬の念に分けられる。前者は動物実験を通して客観的に捉えることができ、後者は個人の主観レベルで処理することができる。時間的な見方をすれば、情動は瞬間的な思いになり、尊敬の念は継続的な思いになる。周知の通り、感情には喜怒哀楽のようにどちらにも入るものがある。(二木:1999)
     この小論ではこれらをカラムに採用し「山椒大夫」のDBの作成法を検討していく。文学の研究を少しでも客観的にするためである。
     情動の起因には諸説が考えられる。そのうちの一つに内的要因(創発)と外的要因(誘発)による体の反応があげられる。鴎外の歴史小説にも内的要因と外的要因による思考があり、創発が主の作品と誘発が主の作品に分類することができる。前者には「阿部一族」、「佐橋甚五郎」、後者には「安井夫人」、「山椒大夫」が入る。こうした思考の流れは行動とも関連する。 

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析4

    D シナジーのメタファーのプロセス

    [フローチャート]
    ① 知的財産が自分と近い作家を選択する。
    ② 場面のイメージの対照表を作成する。場面が浮かぶように話をまとめる。
    ③  解析イメージから何れかの組を作る。言語解析は構文と意味が対象になる。
    ④ 認知科学のモデルは、Lのプロセス全体に適用される。例、前半は言語の分析、後半は情報の分析。
    ⑤ 場面ごとに問題の解決と未解決を確認する。
    ⑥ 問題解決の場面では、Lに縦横ABを滑ってCに到達後、解析イメージに戻る。問題未解決の場面では、すぐに解析イメージに戻る。
    ⑦ 各分野の専門家が思い描くリスク回避を参考にしながら、作家の意思決定を想定する。
    ⑧ 問題解決の場面を中心にして、テキストの共生について考察する。

     ①、②、③は受容の読みのプロセス、④は認知科学の前半と後半、⑤、⑥は異質のCとのイメージ合わせになり、⑦で作家の脳の活動を探り、⑧でシナジーのメタファーに到達する。DBの作成については、これらが全て収まるようにカラムを工夫すること。
     
    ①   一文一文解析しながら、選択した作家の知的財産を追っていく。例えば、受容の段階で文体などの平易な読みを想定し、共生の段階で知的財産に纏わる異質のCを探る。この作業は②と③でも行われる。

    ②  場面のイメージが浮かぶような対照表を作る。

    ③  テキストの解析を何れかの組にする。例えば、トーマス・マンは「イロニーとファジィ」、魯迅は「馬虎と記憶」という組にする。組が見つからなければ、①から③のプロセスを繰り返す。

    ④  認知プロセスの前半と後半を確認する。

    ⑤  場面の情報の流れを考える。問題解決と問題未解決で場面を分ける。

    ⑥  問題解決の場面は、異質のCに到達後、解析イメージにリターンする。問題未解決の場面は、すぐに解析イメージにリターンする。こう考えると、システムがスムーズになる。

    ⑦  各分野のエキスパートが思い描くリスク回避と意志決定がテーマである。緊急着陸、救急医療、株式市場、環境問題などから生成イメージにつながるようにリスク回避のポイントを作る。そこから、作家の意思決定を考える。

    ⑧  これにより作家の脳の活動の一例といえるシナジーのメタファーが作られる。「魯迅とカオス」というシナジーのメタファーは、テキスト共生に基づいた組のアンサンブルであり、文学をマクロに考えるための方法である。

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析3

    2.2 シナジーのトレーニング
     
     人文科学の人でもできるトレーニングとして組のアンサンブルを考える。シナジーという研究の対象は、元々が組からなっているためである。例えば、手のひらを閉じたり開いたりするのも、肘を伸ばしたり畳んだりするのも運動でいうシナジーである。Lのモデルができるだけ多くの組を処理できるように、シナジーの研究のトレーニングとして三つのステップを考える。

    A シナジーの組

     例えば、社会とシステム、法律と技術(特許)、経営工学、金融工学、ソフトウェアとハードウェア、心理と医学、法律と医学、文化と栄養そして文学と計算などがこのグループに入る。これらの中から何れかの組を選択して、テーマを作っていく。もちろんこれらの組について複数対応できることが望ましい。

    B テーマの組

     選んだ組からLに通じるテーマを作るには、人文科学と脳科学という組のみならず、ミクロとマクロ、対照の言語文学と比較の言語文学、東洋と西洋などの項目も必要になる。ここでミクロとは主の専門の研究を指し、マクロとはどの系列に属していても該当するように、地球規模とフォーマットのシフトを評価の項目とする。シナジーの研究は、バランスを維持することが大切である。
     「トーマス・マンとファジィ」は、ドイツ語と人工知能という組であり、「魯迅とカオス」は、中国語と記憶や精神病からなる組である。そこには洋学と漢学があり、また長編と短編という組もある。計算と文学のモデルは、こうした調整が土台になっている。

    テーマの組 文系と理系
    小説を読みながら、文理のモデルを調節する。
    テーマの組 人文科学と社会科学
    文献とデータの処理を調節する。
    テーマの組 語学文学(対照と比較)
    対照言語と比較言語の枠組みで小説を分析する。
    テーマの組 東洋と西洋
    東洋と西洋の発想の違いを考える。例えば、東洋哲学と西洋哲学、国や地域における政治、法律、経済の違い、東洋医学と西洋医学。
    テーマの組 基礎と応用
    まず、ある作家の作品を題材にしてLのモデルを作る。次に、他の作家のLのモデルと比較する。
    テーマの組 伝統の技と先端の技
    人文科学の文献学とシナジーのストーリーを作るための文献学(テキスト共生)。ブラックボックスを消すために、テキスト共生の組を複数作る。
    テーマの組 ミクロとマクロ
    ミクロは主の専門の調節、マクロは複数の副専攻を交えた調整。縦に一つ(比較)、横にもう一つ取る(共生)。

    C 分析の組

     さらに、テーマを分析するための組が必要である。例えば、ボトムアップとトップダウン、理論と実践、一般と特殊、言語情報と非言語情報、強と弱など。

    分析の組 ボトムアップとトップダウン
    専門の詳細情報から概略的なものへ移行する方法。及び、全体を整える概略的な情報から詳細なものへ移行する方法。
    分析の組 理論と実践
    すべての研究分野で取るべき分析方法。言語分析については、モンターギュの論理文法が理論で、翻訳のトレーニングが実践になる。
    分析の組 一般と特殊
    小説を扱うときに、一般の読みと特殊な読みを想定する。前者は受容の読みであり、後者は共生の読みである。
    分析の組 言語情報と非言語情報
    前者は言語により伝達される情報、後者は感情や思考や判断といった非言語情報である。
    分析の組 強と弱
    組の構成要素は同じレベルでなくてもよい。両方とも強にすると、同じ組に固執するため、テーマを展開させにくくなる。

     このようにして組のアンサンブルを調節しながら、トーマス・マンの「魔の山」や魯迅の「狂人日記」及び「阿Q正伝」についてLのストーリーを作成した。

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析2

    1 シナジーのメタファーとは

     小説を読むときは、通常、作品の受容を考えるため、読者の脳の活動が問題になる。一方、作家の執筆時の脳の活動を探るために、この小論では共生の読みについて考察していく。シナジーのメタファーは、受容と共生をまとめる一例である。イメージは通常のメタファーを踏襲し、Aが根源領域、Cが目標領域、そしてBがその写像という関係になる。ここではAが人文科学、Bが認知科学、Cが脳科学である。
     論文の目的は、小説のデータベース(DB)を作るために必要なシナジーのトレーニングについて考え、受容と共生からなるDBを作成し、シナジーのメタファーを考察することにある。
     但し、シナジーのメタファーのイメージを整えるために、CからBへのリターンを想定している。文学研究をマクロにシステム化するためである。

    2 Lのストーリーの作り方

    2.1 文学と計算のモデル

    ① 縦は言語、文学、○○語教育といった人文の軸、横は共生の軸で、奥に行くと双方を調整する脳科学がある。

    ② 縦は解析イメージであり、横は生成イメージである。表象とは、知覚したイメージを記憶して心で再現する人間の精神活動のことである。例えば、言語、記憶、感情、思考、判断といった精神活動は、脳が生み出している。また、シンボルは知覚するものであり、パターンはその処理に当たる。

    ③ 縦横のテーマには、トーマス・マン、魯迅、鴎外そして英独中日といった東西の言語や文化の比較、リスク回避と意思決定による作家の脳の活動や知的財産などがある。

    ④ このモデルの役割は、A(人文)+B(認知)の解析イメージとB(認知)+C(脳科学)の生成イメージをまとめることにある。情報の流れは、AとBから異質のCに到達後、解析イメージにリターンする。

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析1

    【要約】

     シナジーのメタファーを考察するために、森鴎外(1862-1922)の歴史小説に挑戦する。鴎外は、明治天皇や乃木大将の死後に猛然と歴史小説を書いた。これまでに説明してきた「トーマス・マンとファジィ」、「魯迅とカオス」に続くシナジー論の第三弾は、「山椒大夫」(1915)を執筆していた鴎外の脳の活動を探るテキストの分析である。

    花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より