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  • トーマス・マンとファジィ2

     Thomas Mannのイロニーを一種の推論と見なし、テキストのダイナミズムを考察する。題材とする「魔の山」がThomas Manの全集においてイロニーの交差点と見なされているからである。(Baumgart 1964:147)
    Frommer (1966)によれば、 諸々の対象は論理的に共存不可能であるが、それを可能にするためにイロニ 一が使われる。イロニーは、最終的な決定を知らない、それ故に、一種の推論になる。「AでもなければBでもない」とか「AでもありBでもあ る」の観点を対話の単位と結びつける。すると、双方の側面に対して留保することにより、両方へ同時に接近することができるようになる。これは、美的で中立な表現として主人公Hans Castorpのイロニーとなり、その都度、他方を批判するために、双方の観点を交互に自分のものとし、彼自身の中で二重に矛盾した社会参加(アンガージユマン) の表現になっていく。
     一方、これまで理論言語学の枠組みでイロニーを表現することは難しかった。 しかし、Thomas Mann のイロニーと Zadeh の ファジィ理論の間に複数の共通項(イロニーの原理)が見い出せること から、本書では、Thomas Mannのイロニーを形式論で表記するためにファジィ理論を採用し、テキスト(「魔の山」)のダイナミズムを考察していく。

    花村嘉英(2005)計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?より

  • トーマス・マンとファジィ1

     Thomas Mann は、散文の条件として常に現実から距離を置く。一つには、現実をできるだけ正確に考察するために、また一つには、それを批判するために、つまり、イロニー 的に。…この批判的な距離は、イロニー的な距離になりうるであろう。実際、批判的な表現における簡潔さには、余すところなく正確に規定された概念言語の要求に対して、言語媒体そのものの特徴から反対の行動をとるある種の制限が設定されている。
     そして、ザデーはいう。正確さと複雑さは、両立が困難である。システムの複雑さが増すと、その振舞いについて正確ではっきりとした主張はできなくなってくる。例えば、現実の経済と関連したシステムの振舞いを推測することは、大変に難しい。
     つまり、トーマス・マンもザデーも、物事を深く正確に突き詰めていってもそこ には限界があり、逆に深追いしないことにより良い結果が得られることを主張している。そこで私のブログでは、ファジイ理論とThomas Mannのイロニーをさらに掘り下げて、両者の整合性を見ていくことにする。 そして、トーマス・マンの「魔の山」の購読脳の出力は、イロニーとファジィとし、これが横に滑って作家の執筆脳であるファジィとニューラルにたどり着くというストーリーである。この小論では、ファジィは様相を拡大した推論であり、ニューラルは直感とする。

    花村嘉英(2005)計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?より

  • クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について9

    4 まとめ

     クッツェーの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「鉄の時代」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。

    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    ウィキペディア J.M. クッツェー
    John Maxwell Coetzee Age of Iron Penguin books 2018
    Age of Iron(J.M.Coetzee) Wikipedia 

  • クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について8

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    D 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2

    A 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    D 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    E 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。   

    結果     
     この場面でカレンは、不名誉の蓄積からガンが発現したといっている。自己嫌悪から体が有害になり、体自体が食べ物を受けつけなくなるも、ヴァーキュールとの精神的な交わりが支えとなるため、購読脳の「末期がんと精神的な愛」からクッツェーの立場「白人リベラルと精神の葛藤」という執筆脳の組を引き出すことができる。 

    花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

  • クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について7

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

  • クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について6

    分析例

    1 カレンがガンを認める場面。   
    2 この小論では、「鉄の時代」の執筆脳を「白人リベラルと精神の葛藤」と考えているため、意味3の思考の流れ、精神の葛藤に注目する。  
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3 精神の葛藤①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし
    4 人工知能 ①白人リベラル、②精神の葛藤 
     
    テキスト共生の公式   
     
    ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「末期がんと精神的な愛」を作る。
    ステップ2 野蛮と人種差別の時代がやがて終わることを強調しているため、「白人リベラルと精神の葛藤」という組を作り、解析の組と合わせる。

    A ①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①白人リベラル+②精神の葛藤という組と合わせる。
    B ①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①白人リベラル+②精神の葛藤という組と合わせる。
    C ①視覚+②怒+①あり+①直示という解析の組を、①白人リベラル+②精神の葛藤という組と合わせる。 
    D ①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①白人リベラル+②精神の葛藤という組と合わせる。
    E ①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①白人リベラル+②精神の葛藤という組と合わせる。   
    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

  • クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について5

    【連想分析1】

    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    A ”You know I am sick. Do you know what is wrong with me? I have canser. I have canser from the accumulation of shame I endured in my life. That is how canser comes about: from self-loathing the body turns malignant and begins to eat away at itself. 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

    B ”You say, ‘What is the point of consuming yourself in shame and loathing? I don’t want to listen to the story of how you feel, it is just another story, why don’t you do something?’ And when you say that, I say, ‘Yes.’ I say, ‘Yes.’ I say, ‘Yes.’ 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

    C ”There is nothing I can reply but ‘Yes’ when you put that question to me. But let me tell you what it is like to utter that ‘Yes.’ It is like being on trial for your life and being allowed only two words. Yes and No. Whenever you take a breath to speak out, you are warned by the judges: ‘Yes or No: no speeches’.
    意味1 1、意味2 2、意味3 1、意味4 1、人工知能1

    D ’Yes,’ you say. Yet all the time you feel other words stirring inside you like life in the womb. Not like a child kocking, not yet, but like the very beginnings, like the deepdown stirring of knowledge a woman has when she is pregnant.
    “There is not only death inside me. There is life too. The death is strong, the life is weak. But my duty is to the life. I must keep it alive. I must. 意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

    E ”You do not believe in words. You think only blows are real, blows and bullets. But listen to me: can’t you hear that the words I speak are real? Listen! They may only be air but they come from my heart, from my womb. They are not Yes, they are not No. What is living inside me is something else, another word. And I am fighting for it, in my manner, fighting for it not to be stifled. 
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能2

    花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

  • クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について4

    3 データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】

    表1 「鉄の時代」のデータベースのカラム
    項目名 内容  説明
    文法1 態    能動、受動、使役。
    文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 精神の葛藤ありなし
    意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「末期がんと精神的な愛」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 リベラルと精神の葛藤 エキスパートシステム リベラルは、白人自由主義者のこと。 精神の葛藤とは、精神内部でそれぞれ違った方向の力と力とが衝突している状態。

    花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

  • クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について3

    フローレンスの子供ベッキの友人ジョンが大けがをする。皆が病院に見舞いに行くも、カレンとヴァーキュールは、車に残る。ヴァーキュールは、末期がんであることを娘に告げるように勧める。
     フローレンスのいとこタバネに会うため、カレンとフローレンスは、ググルトに行く。叫びや死体が渦巻く地域で、カレンは、発作を起こす。そこでベッキと黒人たちが口に砂を含み壁の横で寝ているのを見た。白人の社会で生きて来たカレンが知らない世界である。鉄がカレンやケープタウンの人々の粗雑で野蛮な生活を表現している。フローレンスも鉄に似ていて、子供たちもやはり鉄の子供たちである(P.50)。野蛮であることは、大部分のケープタウンの人々の気質である。すべての歴史の時代と同様に、野蛮と人種差別は、ある時終結することになる(P.68)。
     カレンは、自殺も考える。ヴァーキュールは、リキュールを買い、飲むように勧める。カレンは、拒絶するも、ベッキに尋ねながらジョンを探す。何かを隠している。次の日、警察がジョンを探しに来る。カレンが混乱する間、ジョンは射殺される。カレンは、通りをさ迷い歩く。ヴァーキュールは彼女を見つけ、木の中で共に休息する。カレンには激しい痛みが襲う。
     がんが進行しているため(P.155)、体が急速に衰え、悪夢にうなされる。ヴァーキュールは、繰り返し生命を絶つように勧める。二人は、ベッドを共にしはじめる。精神的な恋愛である。あるとても寒い日に彼女が起きた時、今日がその日かどうか尋ねる。ヴァーキュールは、ベッドに入り彼女を抱擁する(P.198)。人種の壁を越えて。カレンの最後の言葉は、もう温まることができないである。
     クッツェーは、この小説の中に重要なテーマを置いている。年を取る、死、英雄としての告白者、語りの表現、自由の意味、人の組合、親しい関係や南アフリカの白人リベラルの位置などである。 
     そこで、「鉄の時代」の購読脳は、「末期がんと精神的な愛」にし、野蛮と人種差別というアパルトヘイトの時代がやがて終わることを強調しているため、執筆脳は「白人リベラルと精神の葛藤」にする。「鉄の時代」のシナジーのメタファーは、「クッツェーと病気や社会がもたらす心の問題」である。
     

    花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より

  • クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について2

    2 「Age of Iron」のLのストーリー

     ジョン・マックスウェル・クッツェー(1940-)は、アフリカーナ―の両親のもと南アフリカのケープタウンに生まれた。大学までケープタウンで過ごし、英文学と数学の学士号を取る。1961年にイギリスへ留学し、フォード・マドックス・フォードで修士論文を書く。その後、南アフリカに帰国するも、博士論文作成のためアメリカに渡り、テキサス大学でサミュエル・ベケットに関する言語学からの考察で博士号を取得する。
     「Age of Iron」(1990)は、元大学教授のカレンという女性とアパルトヘイトに反対し米国に移住した彼女の娘が交わす手紙という形で物語が進んでいく。カレンが書簡体の一人称のナレーターである。手紙の中で娘もさること、読者に直接呼びかける文体である。クッツェーの小説は、coming-age novelと解釈され、主役の成長に焦点を当てた一種の発展小説である。
     医者に末期がんを宣告されたカレンは、近くキャンプから出て来たホームレスのヴァーキュールという男と心が通う(P.131)。カレンには、フローレンスという子持ちの家政婦がいるにも関わらず、突然の体の痛みに彼が手を貸してくれたからである。カレンは、確かにフローレンスの息子が居合わせることが不快であった。
     フローレンスの子供ベッキの友人ジョンが大けがをする。皆が病院に見舞いに行くも、カレンとヴァーキュールは、車に残る。ヴァーキュールは、末期がんであることを娘に告げるように勧める。

    花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より